寒き日

『返信下さい』一恵園

 明けましておめでとうございます。年のはじめに当たりまして、手紙の効用ということについて私の意見をちょっとお聞き下さいませ。

 この頃は、何事も電話、電話で、手紙を書く心のゆとりを人びとは失ってしまったような気がします。手紙には、電話にない味があります。何度でも読めますし、読むたびに語りかけてくれます。

 だから、重病の友達には明るく面白く、そして祈りの手紙を。交通事故にあって、字の書けない友達には、十日に一通ずつくらいの割合いで。老齢で死の近づいている人には、それこそ宮沢賢治ではないけれど、極楽ってきれいな花が咲いて、孔雀がたくさん飛び交っているんですって、などと。

 外国へいっている近しい人達には、下手な横文字の宛名書きに閉口しながらも、手本と首っぴきで。病気見舞にも、看護者のはげましにも、もっとも喜ばれるのは手紙なんですから。

 なぜでしょう。

 手紙も、気取って上手に書こうとしますと書けないものです。余りあらたまらないで、有りのままに書く方が、割合いに喜ばれます。だから私は、書き直しもしなければ、読み返しもしない、八方破れで出します。なぜなら、読み返したりしていますと、不思議に出すのが嫌になり、自分の手紙が鼻持ちならぬほど下手に思えて、ひどく憂うつになるのです。

 だから笑われようが、くさされようが、せっせせっせと、下手な字と誤文とを書きつらねて、病気の人には安らぎを、悲しい人にはほほ笑みの、暖かい灯(ともしび)となってくれることを願って書いています。

 ところで皆さん、人の運命は、その人の性格にあり、といわれています。

 ふっと気がついて、自分のこし方、行く末を、現在立っている所で眺めてみますと、今日まがりなりにも私がこうした作文を―作文というより呟きを―随草などと銘打って書けるようになった運命の源は、せっせせっせと年間百五十通を越す便りを書いたこと、その手紙文の延長線上にあったのではないか、と思われるのです。

 家庭の中でくすぶっている女が、ある日突然、名文を書く。なあんて大それたことがどうして出来るでしょう。「ふとした運命のいたづらから」などとよく言われますが、運命は、すべて己が手の中から生まれいでるものです。

 つかむか、つかまないか。

 人に幸をはこぶために書いていた手紙が、いつのまにやら一石二鳥の徳となり、私自身、新しい道を歩き始めたような気がするのです。

 皆さん、今年から手紙を書き始めてみようではありませんか。

続・手紙のすすめ

 春になって、外がぽかぽかと暖くなってきますと、人びとはなんとなく外へ出たくなり、心がウキウキと雲のように軽くなるものです。

 でも外へ出られなかったり、遠くて、とても相逢うことのできない人もあります。そのようなとき、そのような人に、私は手紙を書くことにしています。ちょっとした「手紙魔」だと自称しています。

 遠くへ嫁いで行かれた義姉には、故郷だよりとして村のあれこれ、姉弟の消息、色々な、なつかしい出来事を年に二回程お知らせしていたのです。大変大変喜んで下さって、以来誰よりも親しい間柄となり、手紙というものがどんなに大切で心と心の強い信頼の、つながりになるものだと思ったことです。

 その義柿が病んで、一年近くも入院された時には、それこそせっせせっせと手紙を書いたものです。私から出す便りの返事は、大低は梨のつぶてで、私の片便りに終わっているものですから、少しさぼったりしたある晩、

 「おばさん、母に手紙を下さい。母が私に手紙を書けというのですが、まだ書いてないのに、手紙はまだか、手紙はまだか、今日もまだこない、といって待っているのです。おばさん、お願い、母に手紙を下さい」

 と、義柿の娘から電話がかかってきたのです。聞けば義姉は、ハガキも書けず、電話も自分でかけられなくなっていたのです。

 早速手紙を書き、家中全員で、見舞にかけつけたものです。義姉が亡くなって、その空間をつないでいた、便りの文字は切れたけれども、ああ、自分のなすべき務めは果したのだ、といった安堵感が、何となく、私を落着かせてくれたものです。

 また、ある日

 「おばさん、お手紙有難うございました。重病で寝た切りの母の枕元でおばさんの手紙を、私が読んで聞かせましたら、母が笑ったんです。かすかに、とてもとても嬉しいでした。それから母は少しずつ、少しずつ、よくなっています」

 このお母さんは私の友達で、この言葉は娘さんの電話です。母一人、子ひとりの大切なお母さんだったのです。

 それはそれは面白い、友達と私の失敗談を書き送ったのです。手紙って随分人の心に、光と安らぎと暖かさを、持ってゆくものですね。それで私は性こりもなく、いつもいつも、下手な長手紙をせっせせっせと、書くことにしています。

 手紙の効用の一石二鳥の内の一鳥でございます。


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