植松風土記

燈籠

山野としえ 著


家伝天中本舗 渋川神社の燈籠
庄屋の門 家伝天中本舗・門・倉・長屋
太鼓 ・明治初年庄屋の門
・天宝10年(1839)棟札のある新宅
家伝天中本舗 ・玄関に吊られた太鼓
(事件の起きた時、村中に知らすため)
・大黒柱に作られた銭隠し
・昔、ランプを掛けた自在
・荒果てた空家の土塀
井戸 ・井戸屋根のある門井戸
・環のついた床下の板
・庄屋の玄関
・村を取りまく川に残っている石垣
天井部屋 土門の豪壮な屋根組み、右端天井部屋へ上る階段
一の間 代官屋敷一の間(12畳)
代官屋敷の榧の古木

龍華嶌植枩村(序文にかえて)

 年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず、と云いますが人人の住み家も変らないように見えて、年々歳々相変るものです。

 暫く通らなかった道に、或る日、古い家を毀ち、四隅に青竹を建て、〆縄が張られていたり、何時の間にやら新しく白々とした家が、道路一杯に、通りを脾睨(へいげい)して建って、あっと圧倒されそうに、魂消る時もあります。

 眠ったような植松も例外ではありません。このまゝでは、古い家も旧奈良街道の繁栄の跡も、どう変るか分りません。せめて今のうちに写真撮影でもと、「河内どんこう」の写真部の方にお願いしたんです。「植松にもこんな古い建物があったのですか。」こんな事から「河内どんこう」八号のグラビヤに取り上げられ、写真を撮って貰っても後をどうするって、考えていなかったので、説明をと言われてまごまごしています。

 植松は店屋が少なくて、農村が本来の姿です。だから基本的な農家の構造を持った家を、主体として写して貰ったのです。

 外形が変らなくて、五十年を経た中農の家。盗人を阻むとしてではなく、七十年間愛くるしい土塀として、家の日隠し役を、果して来た小農の塀。

 明治初年に建てられた豪農の長屋門。二百年を経た門は割りに小さな門。文政天保の昔より、「家傳天中五方御丸薬」の本舗として、近畿はおろか、遠く今の韓国まで、販売網を拡げ、その家の前を、通るだけで、幼児の疳(かん)虫が治ると言われた程の、豪華な表門、倉、長屋。奈良県境迄己が土地を踏んで行ける大地主、その所有地から出土した礎石(宝積寺)を大切に庭に祀って保存されている大家。萱葺であった為に、明治二十二年開通の油煙からボヤが出たと、瓦葺に替えられた大地主。此所のお家には、愉快な仕掛が、沢山あります。

台所の上り框(かまち)の上に自在があり、竹ランプの光が自由に動き、床下には湿気を吸わせる為に炭を入れ、出し入れの便に、板戸に鐶が付いています。お上(うえ)大黒柱には、金隠しの穴が作られ、神仏に供えるお香水は、毎朝深い井戸から清い水を、釣瓶で汲んで捧げられます。

玄関に太鼓を、吊り下げてある家。今は人住まず、荒れるにまかせた、大土塀の続く広い屋敷。

老夫婦が守る、二百年近い、床付き十八畳もの大広間を持つ家。

掃除も出来ませんのでと、言い乍らも、親切に見せて下され、或る古老の話、「天井板は、もみじの板で、昔はよく拭き込まれて、赤光りがして顔が写りました。」と、薄汚れた天井を眺め、感概無量です。大地主の分家で天保十年の棟札のある家。たった一軒残っている萱葺屋根を持った家。

 村で一番古い代官屋敷と、呼ばれる所があります。昔村の人々は、堂か蔵かと言う程、大きく、がっしりした作りだったから、堂蔵(どうぐら)屋敷と呼んでいたんです。こゝと郷蔵は最初から瓦葺で、代官屋敷は本葺です。「河内どんこう」七号所載鴻池会所より、少し早いかそれとも同じ頃か、(享保十三申年一七二八年)に建ったのだろうと思います。一七二五年頃、植松に大火があったのですが、此所の門だけは其の時焼け残ったそうです。何十カ村かの鴻池会所を小さくした建て方ですが、天井部屋への作りつけ上り段がとても変り、上り框は、土間の人間を威嚇するのに、十分な高さを持ち、すぐ広い大広間に続いています。離れの別座敷は昔のままで、欄間の作りなど、違い格子の古い形で、高官出張時の部屋に当てられ、庭に太い榧(かや)の古本が、家の歴史を物語っています。

一般農民は、容易な事では、この大玄関の、敷居を跨いで中へは入れなかったそうです。

 大きな制札を掲げた玄関は、植松で一番最後の庄屋さんの邸宅で、この制札は堺県となっています。千何坪かの豪壮な造りだったのですが、住む人が変って、大灯籠や門だけが昔の面影を今に伝えています。川は防火と盗賊の用心と灌漑、そして落し水などの用を足します。だから川に面しては、所々古い石垣が残っています。これら、幾歳月の風雪に耐えて来た、柱の深い木目は、今の私達に何を語りかけているのでしょう。

耳と目と心を傾けて、声なき物に留意しようではありませんか。

山野としえ

植松風土記

地図

植松風土記は、やお文化協会発行による
河内どんこう≠ノ連載された物語です。

さしえ・京田 信太良 装丁・さしえ・京田 信太良


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