金五万円也(頭をよくする方法)

金五万円也(頭をよくする方法)

 第一、砂糖

 甘いものの大嫌いな私は、目を白黒さして、貰ってきたかしわ餅を、ぐっと頬張って及第。いと優し。

 第二、酸素

 お風呂へ入って洗面器に水を汲んで、顔をつけてみる。恐ろしくて、苦しくならん先に顔を上げて別に吸う気にもならない酸素を吸う。苦しい程顔をつけると心臓の弱い私は、洗面器に顔を浸けて自殺をはかったという、自殺志望者の小説の文章を思い出して、浸け過ぎては死なんとも限らないし、死んでは困るから、ちょつと浸けて酸素を吸う。何のことはない、吸入の効果は零、水に顔を浸すその間合が、いかにもむつかしいのである。

 第三の笑い。

 これも実はたやすそうで、囲りが気になってなかなかに笑えないものである。箸のこけたのでも笑える若い女の子は、慥かに健康で頭の発達の適齢期である。がそんなことで感心していては、老化の頭をよくすることなんてとてもできない。が悲しいかな兎小屋の住人として、

 「アッハハハ、アッハハハ…」

 と、一人で笑おうものなら、

 「あゝ!とうとうあの人も気い狂わはったんかいな」と思われかねない。

風呂でためしに笑ってみたら、狭いタイルの壁に響いて、如何にも空虚、

 「狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり」という。徒々草の著者吉田兼好ならねども

 「笑いは頭をよくするとて笑えども、見知らぬ人が聞けばやはり狂人なり?」と半笑いで止みぬ。

てなことになった。

これでは友達と面白い話をして、お互いに大口開いて笑うしか手はないなあ。

 「よし明日はあの人と、一丁やってみるとしようか……」

 第四 頭を空っぽにする方法

 先づ、座布田を半分に折ってお尻の下に当てがう。あぐらという足の組み方は、こういうふうにするものかと、いつも和服で正座に馴れている女にとっては、あぐらは痩せた足の骨の痛いものである。背すじをしゃんとのばす。目は半眼というが、雑物が見えるのでとじる。手の指は細長い横丸〇にするか、目鏡のように丸を二つ∞にするか、などと思案しながら五分程座る。

 「そんなんあきませんで。警策もええとこでんな」と子供に笑われながら、これは最もできそうだ。私の性にあっている。座禅するわが姿を客観的に、まぶたの裏に画き、実は心で笑いながら無念無想、心頭を滅却すれば火も又涼し≠ゥ、たかが五分や十分というなかれ、物を書いているとすぐ時間がたつが、空の時間はなかなかに長いものである。居眠りはしないものの、最初目を開けて時計を見たらまだ三分であった。

 「何だまだ三分か」

有難いことに、ここには警策がない。

金五万円也(頭をよくする方法)  五番目 海外旅行

 海外旅行と聞いただけでこれは駄目、国内旅行でもまだ飛行機に乗ったことはない。そして戦後三十八年もたつのに、東京へ行ったこともない。外国への団体旅行に誘われても、勿論行く気もないし、体力の自信もない。この間、何かにこんな話が書いてあった。

 それは明治時代の話である。

汽笛一声新橋を、今わが汽車は離れたり≠フ頃、某有名作家は、静岡ヘ口演に行くのに、汽車を嫌って自動車に乗っていったと、汽車の方が余程楽で、自動車はもっと珍らしい時代ではなかったろうか。この有名作家は生涯汽車に乗らなかったそうである。土の上から、足をよう離さない私は、この話を笑うことのできない同類の女である。

第五番、頭のよくなる方法もこれで一抜ける。

 そもそも、この頭をよくする方法の話を、五分間ぐらいのものと仮定すると、一時間六十万円の口演料の、六十分の五である。

なになに五分間は五万円?

へええ!五万円の高価な話となると、むざむざ無駄にするという手はない。

 老化頭よザ・ストップ、頭がよくなると思うと実行せざるべからず。何が何でも四つまで、四万円がとこは頑張らなくっちゃあ!

又聞きの又聞きの話ながら、信じよさらば与えられん。どうです皆さん、よいと信じて一丁やってみては。

 五万円ですぞ!

何?海外旅行したらもっと高くつくって?

内緒、内緒、私みたいに四つでいきましょう四つで、一抜けたあ!で。

としえ

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